過去ログ

                                Page    1713
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
   通常モードに戻る  ┃  INDEX  ┃  ≪前へ  │  次へ≫   
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ▼第2回「やまねこ読書会」(課題書『嘘の木』)の議事録  ニャン公 19/4/1(月) 12:52
   ┗Re:第2回「やまねこ読書会」(課題書『嘘の木』)の議事録  ナウシカ 19/4/5(金) 11:37

 ───────────────────────────────────────
 ■題名 : 第2回「やまねこ読書会」(課題書『嘘の木』)の議事録
 ■名前 : ニャン公
 ■日付 : 19/4/1(月) 12:52
 -------------------------------------------------------------------------
   3月10日(日)、都内にて「第2回やまねこ読書会(会員以外の方もご一緒に)」を開催いたしました。課題図書は、2018年やまねこ賞読み物部門で1位に輝いた作品『嘘の木』(フランシス・ハーディング作/児玉敦子訳/東京創元社)です。
当日は訳者の児玉敦子さんにも参加していただき、翻訳の舞台裏の話も伺えました。
今回は会員以外の一般の方にも参加を呼びかけて、14名での開催となり、密度の濃い読書会となりました。

さて、読書会の議事録をまとめましたので、以下に記します。内容は基本ネタバレとなりますので、あらかじめご承知おきくださいませ。
当日取りましたメモをもとに、ご発言順に掲載するようにいたしました。また読みやすさを優先して趣旨の似たご意見をまとめた部分もあります。どうぞご理解のほどお願いいたします。

***********************************

参加者のコメント

・不思議な物語だ。前半は主人公フェイスの置かれている閉塞感、後半はたたみかけるように進む。
・登場人物が多い。びっくりの連続。作者の好きな世界なのだろう。女性の科学分野での活躍(STEM)を取りあげるのが流行しているので、その流れの本か。
・刊行されてすぐに読んだ。感動以前にページをめくる手が止まらなかった。真っ白な人は出てこない。皆、なにかかかえている。フェイスも、嘘の木に養分を嘘をついて与える。フェイスが手にヘビを這わせる場面が、今までのYAの主人公にはないのでは? バカにしていたお母さんが実はしたたかに生きている、と見せつけているところにうるっときた。ゴシック・ミステリー/ファンタジー。
・2度読んだ。1度目は両親に対してのフェイスの心の中の葛藤を感じた。2度目ではお母さんの内面の葛藤を知った。5人の子どもを失っている。自分でも意外だったがフェイスより母親のマートルに思い入れを感じた。嘘がテーマのこの読み物、どの登場人物を信じていいのかと疑いながら、読み進めた。
・ロールモデルのショーケースだ。ファンタジーだが、特定の時代を選んでいて、女性の不利な立場を時代のせいにできる。男(の子)は読むだろうか?映像向きではないか?(アニメ化?)(ここで、訳者の児玉さんからひとこと:ミステリーファンが読んでくれているので、男性読者も多いようです。)
好きなキャラは家政婦さん。感情移入したのはおじさん。全員平凡な人。
・楽しい読書体験でした。『カッコーの歌』は職場から有休を取って読んだ。ひとつの価値では推しはかれない。マートルが武器を使って生き延びてきて尊敬。弟が左利き。ジェットコースターのような展開。
・おどろおどろしい。児童書として読み始めたので、最初は読みづらかった。父が亡くなってから、ミステリーなんだと思って、がっと読み進んだ。
・最初からYAだと思って読み出した。冒頭から映像がおどろおどろしく浮かぶ。船のシーンであとひくようなことがたくさん出てきた。ミステリーとして評価が高いのもわかる。YAの本は一般的に成長物語が主で、ミステリー部分が軽くなっているが、『嘘の木』は両方うまくいっている。家族の関係がうまく描かれていて、興味深い。フェイスは父が好きで尊敬。母を嫌っていたが、途中から同情。弟(6人目の男の子)は男というだけでちやほやされていて、うとましく思っているが、時々愛おしく思ってしまう。洞窟の中の描写、おどろおどろしいところがおもしろい。小さな嘘に尾ひれがついて、大きくなっていくところがおもしろい。
・マートルがフェイスをよく理解しているのが、再読して分かった。親ってこれでいいと思った。(理解していないところもあるが。)日本の映画にしてみると、明治時代かな?同性愛は、男性は禁じられていたが女性はOKだった?
・読む前の第一印象では、『王様の耳はロバの耳』の話を裏返したような話かと思った。恐ろしさの裏に隠れた美しさがある。ビクトリア朝の雰囲気が充満している。圧倒的な存在感があるのは182ページの「嘘の木」の描写。コミック化したらと考える。少女の残酷さを萩尾望都に描いてほしい。
・記憶に残る作品。触感など、ファンタジーなのにすごくリアル。物語の設定が好き。孤島で、人の住んでいない屋敷、召使い。父の葬儀後の細かい描写が味わい深かった。ミステリー、ホラー、ファンタジー、YAが蔓のようにからまっている佳作。登場人物が皆、したたか。
・五感(臭い、嘘の木の実の味、等)を刺激する話。父も嘘をついていた。父の嘘では嘘の木は成長していなかった。なのに、フェイスの小さな嘘に尾ひれがついて大きな嘘になり、木が成長していった。この対比が面白い。ダーウィンと教会の反目、科学と教会の対立が盛り込まれていておもしろい。自殺をすると普通の墓に入れてもらえない。残された家族も差別を受けるということを知って驚いた。(フェイスの父は自殺ではなかった。)
・課題本の対象年齢が(この読書会では)一番高かった。
・ストーリーのテーマになっている「嘘」は作者がネット時代に生きているので、ネットで広がるのに似ている? 父の嘘よりデマのほうが広がっているから、「デマの木」では?(笑) 出てきた「嘘」、「フェイクニュース」が思い出される。「味覚の表現」は「嘘の木の実の味」でしか出てこない。食卓を囲む描写が出てこない。

翻訳者とのQ&A

本書を訳したきっかけは、出版社への持ち込み?
→ 半持ち込みでした。以前にやまねこで『アンドルー・ラング世界童話集』シリーズ(アンドルー・ラング編/西村醇子監修/東京創元社)をしたときから、東京創元社とはつながりができた。10年余り東京創元社のリーディングをしてきた。前からハーディングのデビュー作などをリーディングしていて、2015年春に"Cuckoo Song"(『カッコーの歌』)のリーディングをしているときに"The Lie Tree"(『嘘の木』)が出た。おもしろそうだったので自分で本を買って読み、編集者に紹介した。コスタ賞を受賞したあとで、邦訳刊行が決まった。

最初に読んだ感想は?
→ ハーディングの作品は、こんな設定をよく思いついたなという本ばかり。YAをやりたかった。歴史物が好き。女の子ががんばるのが好き。『嘘の木』は、どんぴしゃりの本で訳したいと思った。14歳の設定が絶妙。

何か準備は?
→ 実際に訳しだすまでに2ヶ月あったので、その間に時代背景のビクトリア朝に関する本を読んだり、ダーウィンや科学と宗教対立にまつわる本に目を通したりした。時代背景が重なるかと思い、フィリップ・プルマンのサリー・ロックハート・シリーズを読み直したりもした。

訳すにあたって、編集者さんから要望などあったか?
→ 特にないが、一般書として出すと言われた。

調べ物で苦労は?
→ それほど苦労していない。時代の裏をとったくらい。

訳す時に心がけたことは?
→ 気持ち的には原文からなるべく離れないように、原文を読みやすくやくしたつもり。比喩が難しかった。比喩が多いし、擬態語を入れると多すぎるし。ミステリーの展開に間違いがないか、気を使った。

好きな、印象に残っている登場人物
→ フェイス。大人の女性のなかでは、ミス・ハンター。ポールも好きだった。

文中で父親は「父」とあるのに、母親は「マートル」とあり、なぜ「母」ではないのか?
→ 基本的には原文に合わせている。フェイスとマートルとの距離感の表れではないかと解釈している。

時制をどうしたか?
→ 原文の時制は過去形だが、訳文では過去形だけでなく現在形も混在させている。訳文のリズムを考えてだったり、主人公の視点からの描写だったりなど。最後の最後まで悩んで直したところもある。

************************************

児玉敦子さん、ご参加くださった皆さん、有難うございました。充実した時間を共有できまして、世話人一同感謝しています。また来年も開催でき、皆さんに再会できますよう、祈っています。

 ───────────────────────────────────────  ■題名 : Re:第2回「やまねこ読書会」(課題書『嘘の木』)の議事録  ■名前 : ナウシカ  ■日付 : 19/4/5(金) 11:37  -------------------------------------------------------------------------
   ニャン公さん


詳細に当日の様子を再現してくださりありがとうございます。
参加できなかったので、議事録を読めて嬉しいです。

議事録を読みながら、本を読んだときのゾクゾク感がよみがえってきました。


ありがとうございました!


ナウシカ

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━    通常モードに戻る  ┃  INDEX  ┃  ≪前へ  │  次へ≫    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━                                 Page 1713