Page 262 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 通常モードに戻る ┃ INDEX ┃ ≪前へ │ 次へ≫ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ▼【未訳読み物】Land of Milk and Honey hanemi 06/10/12(木) 21:33 ─────────────────────────────────────── ■題名 : 【未訳読み物】Land of Milk and Honey ■名前 : hanemi ■日付 : 06/10/12(木) 21:33 -------------------------------------------------------------------------
"Land of Milk and Honey" by William Taylor HarperCollins Publisher, 160pp. ISBN: 1-86950-519-2 1947年。戦争で母と祖母を失い、14歳の少年ジェイクは妹のジャニスとともにイギリスから、〈乳と蜜の流れる地〉ニュージーランドへ渡った。片脚をなくした父には、2人の面倒をみることは難しかったからである。しかし、到着してすぐにジャニスと引き離されてしまった。ジャニスがどこに連れて行かれたのか知らされないまま、ジェイクはひとり列車に乗り、ピアソン家へ向かう。ピアソン家の農場は夫人名義のため、ピアソン氏は夫人には頭が上がらない。農場で働いたことのないジェイクは、ピアソン一家にこき使われて疲れ果てる。おまけに夫人の作る食事はまずく、量も少ない。夫妻の息子、17歳のダーシーは両親に溺愛されており、ジェイクに対して好き放題に振舞う。意に沿わぬことを無理やりさせられても、ほかに行くところもなく、お金もないため、ジェイクはひたすら耐えていた。 ピアソン夫妻が親戚の結婚式に出席するため留守にした週末、ダーシーの友人、ゲリーが町からやってきた。両親がいないのをいいことに、ゲリーと一緒に、ダーシーはジェイクに対していつもよりもさらに残酷な仕打ちをする。ジェイクは見も心も傷つき、スーツケースを持って飛び出す。町をめざして歩いているところを車に乗った男性に拾われたが、男性は非番の警官だった。ジェイクの話し方でピアソン家の農場で働くイギリス人の少年だと気づかれ、ピアソン家に連れ戻されてしまう。逃げ出したことに激怒したピアソン氏とダーシーは、ジェイクの背中をベルトで激しく打つ。ようやく解放されたジェイクは、背中の傷の痛みに苦しみながら、着の身着のままで再び逃げ出す。 タイトルは旧約聖書の「出エジプト記」から。カナンの地をめざしたユダヤ人を待っていたのが、決して楽な生活ではなかったように、ニュージーランドに渡ったジェイクもつらい日々を送る。ダーシーのジェイクに与えた数々の仕打ちは残酷で、思わず途中で投げ出そうかと思ったほど。読み続けられたのは、冒頭、年を取ったジェイクが息子夫婦と孫と一緒に農場を訪れ、ダーシーと再会する場面があったから。今はつらい生活をしていても、そのうち……と希望を持つことができた。ピアソン家の農場から逃げ出せたあとの日々も、決して平穏ではなく、最後まではらはらした。そして、ジェイクがやって来たのは、やはり〈乳と蜜の流れる地〉だったのかもしれないと思わせるラストは、胸が熱くなった。 ニュージーランドの書評誌でレビューを読んで興味を持って半年ほど前に購入したものの、重いテーマに向き合う勇気がなく読めずにいた。Children's Literature Foundation of New Zealand が選ぶ2006年の Notable New Zealand Books の1冊に選ばれている。エスター・グレン賞やNZP賞の候補にはならなかったが、残酷な描写があるせいかもしれない。巻末の "Authour's Note" によると、20世紀前半(特に第2次大戦後)、約5000人のイギリスの子どもたちが、〈新しい、いい家庭を求めて〉、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカなどに渡ったそうである。 ** hanemi (WYN-1036) ** |